東京都立文京高校言語能力向上プログラム「コトバの教室」 開催レポート |
---|
あうるすぽっとでは、教育プログラムを劇場の活動の柱と一つと位置づけ、その中で豊島区内の公立学校に出向き演劇やダンスのワークショップを行うアウトリーチ活動を行っています。 平成25年度は、豊島区内に所在する都立文京高校において「コトバの教室」と題し、1年生全員を対象としたワークショップを行いました。3回に渡り実施したワークショップの様子を、今回全面的に協力いただいた日本大学芸術学部の学生によるレポートでお届けします。
コーディネーター:熊谷保宏(日本大学芸術学部教授)
講師:絹川友梨、モーリー・ロバートソン、春原憲一郎 アシスタント:日本大学芸術学部の学生のみなさん、あうるすぽっとインターン 会場:都立文京高校視聴覚室 助成:平成25年度文化庁劇場・音楽堂等活性化事業 |
第1回 2013年10月30日(水曜) 講師:絹川友梨 第2回 2013年11月6日(水曜) 講師:モーリー・ロバートソン 第3回 2013年11月13日(水曜) 講師:春原憲一郎 |
第2回 2013年11月6日(水) 講師:モーリー・ロバートソン |
![]() アメリカで生まれ、5歳で日本へ移住。中学校の途中でアメリカへ戻り、高校の途中からは再び日本と、異なる文化を行き来しながら育つ。転校も多かった。移住や転校の度に経験した苦労や身に付けた知恵などが語られてゆくなかで、次第に授業のテーマに関わる「価値観の違い」という問題が浮かび上がってくる。その問題に大いに悩まされた日本での高校時代をくぐり抜け、東大、ハーバード大へ現役で同時に合格するに至ったストーリーに、生徒たちは拍手を送って盛り上がった。 ![]() ディベートのテーマは「男女平等」。予備知識として、モーリーさんが、男女比に関する国際的な統計データを紹介していった。国会議員数、会社における役員の数、そして大学の教員数など、社会的な地位が高いとされる職業に占める女性の比率が日本では少ないことを確認したうえで、モーリーさんが問いかける。国立大学の学生の男女比を(アメリカのハーバードやイェール大学のように)51:49 にしたらどうか? ちなみに東大生の男女比は8:2である。 ![]() モーリーさんが生徒の意見をジャッジすることはない。ひとつひとつの意見を咀嚼し、また論点を整理しつつ、議論を前に進めてゆくファシリテーターの役割に徹している。一方しかるべきタイミングで、新たな問いを生徒たちに投げかけもする──そもそも男女は平等であるべきなのか? 平等であるメリットとデメリットは? 先ほどの、大学の場合とは反対に、メリットの意見が多く出る。では、と、モーリーさんが問いかける──妥協案として、少しずつでも男女の比率を平等に近づけてゆくにはどうしたらよいか...といった具合に、新たなトピックも加えつつ、問題を多面的に検討していった。 ![]() 終盤におこなったのは「男女平等を強制的におこなうことに対して賛成か反対か」のチームディベート。賛成派と反対派のチームに分かれ、まずはチーム内で論点を整理し、のち代表者が発表する。 反対派「選抜は、学力でおこなうべきだ。男子の方が能力的に優位であるから、男女平等を強制することは難しいのではないだろうか」 賛成派「それは偏見である。女性の活躍できる場を強制的に増やせば、その能力も認められてゆくはずだ」 反対派「女性は産休の際に一度職場を離脱しなければならない。そこで新しく入ってくる女性社員に一から仕事を教えなければいけないから、会社の負担が大きい」…… ![]() ディベートのよいところは、普段は考えない、あるいは考えないようにしている事柄について考えることができる点だとモーリーさんは語る。その際に、自分の考えとは異なる意見にも出会う。そもそも、対立する立場を設定して討論をおこなうのがディベートであるから、意見はぶつかり合う。ぶつかり合う意見、自分とは異なる意見に耳を傾けることの大切さを、モーリーさんは繰り返し強調する。異なる意見を聞き入れる耳をもった世代が育つと、日本は良くなる──このモーリーさんの言葉を、生徒の誰もが自分たちに向けられたメッセージとして受け止めていた様子が見て取れ、心強かった。 文=伊藤景(日本大学芸術学部文芸学科) |