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夏からさらなる加速がつき、いよいよラストスパートに入ってきた「あうるすぽっと シェイクスピア・フェスティバル2014」。中でも個性派俳優がズラリと顔をそろえる、毛皮族率いる江本純子演出の『じゃじゃ馬ならし』は、ひときわ目を引く公演ではないでしょうか。お三方ともシェイクスピア経験はそれほどではないと言いつつも、独自の解釈とマイペースな発言を連発。登場人物たちのような、人間くさくて笑える駆け引きが既に始まっているのかと思わせる、トークの詳細をお届けします。見たこともないシェイクスピア劇ができそうな予感、しませんか?
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――江本さんと鳥居さんは、以前ドラマで共演されたそうですね。 鳥居:え、ドラマだっけ? 江本:(笑)ドラマです。その後、うちの公演も観に来てくださって。 鳥居:行きました! でも時生さんとエモジュン(江本)さんは今日初対面なんですよね。 柄本:はい、よろしくお願いします。 鳥居:そもそも、こういう座談会とかどうなんですか? エモジュンさん、人と喋るの好きじゃないでしょ? 江本:そんなことないですよ! 鳥居:私は一人の世界に閉じこもっているのが好きなので、稽古も自宅でやって欲しいくらい(笑)。うちの中は真っ暗だけど。 江本:時生さんは、現場でどのくらいコミュニケーション取られるんですか? 柄本:……なるべく取るようにはします。 鳥居:大人だね。 柄本:3ヶ月くらい我慢すれば終わるじゃないですか、だいたい一つの作品は。 江本:さっきから、ちょいちょいネガティブなこと言いますよね(笑)。 柄本:いや、仕事するなら楽しいほうがいいかなと思って話すようにはしているんですよ。でも稽古が終わるとすぐ帰っちゃうみたいな。僕、お酒も飲めないし。 鳥居:私も! 江本:コミュニケーション取る派の方はありがたいです。今回、ジャンルを越えてたくさんの役者さんが出ますから。 ――シェイクスピアは大所帯になりがちですよね。 江本:読み直して「こんなに登場人物がいるんだ!」と愕然としました(苦笑)。 鳥居:シェイクスピアの魅力ってなんですか? プロデューサー:色んな切り口があるところでしょうか。 ――有名な作品の多いシェイクスピア作品の中で、『じゃじゃ馬ならし』を選んだ理由はどこなのでしょうか? 江本:最初は『夏の夜の夢』をやらないか、とお話しをいただいたんです。でもあれは……私が話すといつもコノ話になりますが(笑)、経費がかかるじゃないですか。衣裳にしろ道具にしろ、お金をかけてこそ面白さを十分に引き出せる作品というか、妖精や女王を出すならディズニーランドには勝てません(笑)。それに、人間ではないものを描くことに今の自分のやりたいこと、興味があまりなかったんです。いくつか読んだ中で、『じゃじゃ馬ならし』が私には分かりやすかった。人間同士の恋愛と欲の話ですから。 鳥居:今、話しながら私を見て「コイツ読んでないだろ」って確認したでしょ(笑)。 江本:(笑)まだ読んでなくて全然いい時期ですよ、役者さんは。 柄本:僕もまだ、ちゃんと読んでません。シェイクスピア、読むだけでタイヘンですよね……。 江本:そうそうそうそう! 言葉の分量が膨大で、読みながら「コレ、面白いかなぁ……」と、心が折れてきちゃう(笑)。でも、この作品は華麗な言葉を削っても、純粋に「駆け引きの物語」として成立する。人と人とが嘘をつきあう、自分の欲望を満たすための駆け引きもあれば、純粋で本気のぶつかりあいもある。そんな「人と人との物語」を生身で描いていくことに興味を持ったんです。 鳥居:エモジュンさんの笑いの取り方は、全然私と違うからすっごい面白い。 江本:どう違うの? 鳥居:私は、サラッと受け流されてもいい笑いが好きだけど、怖くてあまりやらないの。それを江本さんは平気でやったうえに、「ボケてませんよ顔」するじゃない? 私も本当はボケてるのに「ボケてないからスベってもいませんよ顔」するから、そこは一緒なんだけど。 江本:確かに。でも「ボケが分かりづらい」って言われることありません? 鳥居:あるある! それは確実に「ボケてませんよ」と思わせるための作戦なんだけど。そのあたりのテイストは確実に違うから、そこがエモジュンさんの芝居を観ていて面白いところなんですよね。 江本:鳥居さんはすごくキッチリ分析するよね。前に芝居を観てくださったときも、ちゃんと感想を 言ってくださって。 鳥居:エモジュンさんの舞台は、普通のお客さんには「今、台詞噛んだ!」と言われそうな、でも絶対にわざと噛んでる、みたいな場面がちょいちょい入っている。それってズルくない? 柄本:ズルいんですかね? 鳥居:だって、絶対に笑いにはならないし、お客さんが不安になるでしょ。 江本:私、お客さんを不安にさせるのが好きで。「絶対に笑わす!」みたいに押し付けるのはいや だけど、お客さんを困惑させるのはすごく好きなんですよね。 鳥居:そう、戸惑わせるんだよね。「え、コレどっち?」という疑問をみんなに浮かばせたいんだ。 江本:鳥居さんも、そういうこと大得意じゃない? 鳥居:うん、お客さんに「今どこにいるんだろう?」と思わせたいんです。 江本:鳥居さんのコント、どんどんよく分からない方向に向かって行くじゃないですか。そういう不条理な時間がいいな、と観ていて思いますけど。 鳥居:単独ライブの作品は、全部脳内世界に入って行きますね。(柄本に)今度是非観に来て下さい! 単独では本も全部書いてるし、音楽も自分でつくってるの。 柄本:スゴイ! 鳥居:それを2年に1回、ストレス発散のためにやってます。前回は原発と宗教を題材に入れたんだけど、そうしたらDVDを一般発売できなくなっちゃいました(笑)、「公に出せません」って。 柄本:カッコイイですね、それ(笑)。 ――キャタリーナに鳥居さん、ペトルーチオに柄本さん、お二人を起用した理由は? 江本:当時の常識にハマらない、手に負えないじゃじゃ馬娘を鳥居さんに、というのは自然なイメージで、でも段々と良き妻に躾けられてしまう、そのギャップも興味深いですが、男が女を躾けるこの物語を「よい話」ではなく「おもしろい話」と思えるようにしたいと思ったんです。一方のペトルーチオは、デストロイヤーみたいな強烈な娘を躾けていくマッチョな男。この劇自体は元々「劇中劇」として描かれているので、嘘っぽいキャスティングの方が、その「劇中劇」である意味を探れるかな、とも思ったんです。それで、全然マッチョじゃなさそうな時生さんが演じたら、ミス・キャストみたいで面白いかな、と。 鳥居:(笑)確かにマッチョではなさそう。 江本:わからないですよ、実は精神的にはすごいマッチョかも知れないですが(柄本笑)、でも映像作品で演じている役などでは、ナヨッとした人が多いですよね? 柄本:はい、そうですね。 鳥居:私は最初にお話しをいただいたとき、「エモジュンさんの演出なら脱ぐの? じゃあ体鍛えなきゃ」って思いました(全員笑)。 柄本:僕はもう、ひたすら「台詞がタイヘンだろうなぁ」と。 鳥居:エモジュンさんが、きっと覚えやすくしてくれるよ。 江本:確かに言葉はネックになるんですよね。 |
――戯曲には手を入れるのですか? 江本:はい、最初に純粋な「筋」の部分だけ取り出して、そのあと、どうそぎ落とすか考えていこうかなと思っています。柄本さん、シェイクスピアはやったことあるんですか? 柄本:東京乾電池(父・柄本明、母・角替和枝の劇団)公演で、『ハムレット』のフォーティンブラス(隣国の王子)とローゼンクランツ(ハムレットの学友)を、『夏の夜の夢』で妖精の女王にさらわれてくるインドの王子をやりました。どれも、ちょっとだけ出て来る感じの役だから、まともにやるのは今回初めてです。 鳥居:まともかわからないですよ、エモジュンさんの演出だから(笑)。 柄本:我が家はシェイクスピアよりベケットやイヨネスコみたいな、不条理系の劇作家が好きなんですよ。日本では別役実さんとか。 江本:私も大学で演劇を始めて、最初に読んだのは別役さんでした。言葉が短くて読みやすいし、面白いですよね。ページに余白が多いから、めくるのも早いし(笑)。 柄本:「ああ」「どうして」「ここで何が?」みたいな台詞が、延々と続くんですよね。 鳥居:それなら読んでみたい! ――上演機会の多いシェイクスピア作品は、「どういう演出で見せるか」的なことの要求が観客側から強くあるように思いますが。 江本:そこはあまり考えていないんですが、劇作家・演出家の青木豪さんがイギリス留学からの帰国後すぐ、D-BOYSでシェイクスピアの『十二夜』を演出したんですが、その公演が面白くて。全部男優が演じていたんですが、青木さんの演出を見ているうち「シェイクスピアはおふざけなんだ」と初めてわかったんです。というより、世間で言うほど「芸術!」みたいに有難がらなくていいんだ、と思えたというか。もっと軽演劇みたいに、つくり手も観客も気軽に楽しんでいいのだ、と納得できたのが、経験としてとても大きかった。「軽演劇」は自分の創作において重要なテーマとしてやってきたことのひとつで、その場でお客さんをいかに楽しませるかが一番重要。だから劇世界がどうこうというより、この劇世界を使って軽演劇らしく、いかに観客を楽しませるかを追求したいと思ってます。馬鹿馬鹿しく軽やかに。ま、私がやる時点で真面目なものにはならないでしょうけれど(笑)。 鳥居:エモジュンさんがそう言ってくれてよかったぁ。私も、すごく敷居が高いものだと思っていたから、「ちゃんとしなきゃいけないところも色々あるんだろうな」と思ってたんです。 江本:そういう「ちゃんと」の時間もあると思いますけどね。でも、他の出演者の方も割りと自由人が多いから、というか私の中では「自由な人」を集めた座組なので、皆さんに存分に遊んでもらえる環境を用意するのも演出の仕事かな、と。中には遊べない人もいるとは思いますけど、そういう齟齬もまた楽しいんじゃないかな。飲み会でも、すっごく酔っ払って喋り過ぎちゃう人と、自分の時間を大切にしながら無理やり居続ける人がいるでしょ? その両方を遠くから俯瞰している状態の稽古場になるんじゃないかな、と思います(笑)。 |
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――調和を大切にする柄本さんもいらっしゃいますし。 柄本:どーなんですかねぇ……。でも俺、こんな話をしたあとに現場に入って、それで積極的にコミュニケーションを取ったら、お二人から「あ、やってる」と思われますよね? 鳥居:やらなきゃやらないで、「やってねえ!」と思いますよ(笑)。 柄本:どちらにしろこのお二人には、僕の何かがバレてる。それ、ちょっとイヤですよね(笑)。 鳥居:エモジュンさんは役者として出るときは、率先してコミュニケーションを取るんですか? 江本:必要以上には取らないほうかな。 鳥居:それは、取らなくてもこなせる技術があるってことじゃない? 江本:ないないない! あとですごい反省しますよ、「もっと輪に入っておけばよかった」って(笑)。 でも「信頼感のまやかし」みたいな状態が続くのは、すごく気持ち悪いし。 ――プロデュース公演は色々な方の集まりだから難しいですよね。中には演出家を敵にして、俳優陣が団結する場合もあるようですが。 江本:私はそっちのほうがいいかも。 鳥居:嫌われ役を買うってこと? 確かに私も去年劇団を立ち上げたとき、人がいっぱいいる中で何か言おうとすると、すごく極端な言い方になってしまうことに気づいて。だから別に座長を立てたんです。その人が座長として私の意見を代わりに言い、全体も回してくれたから成立したけれど、でなければバラバラのままだったかも。挙句に私がただ嫌われて終わる、みたいな(全員笑)。今回も誰か嫌われ役を立てたらいいんじゃないですか? 江本:そっか、じゃあ演出助手かな(全員笑)。 ――普段、自作自演の鳥居さんにとって、他者の書いた台詞、しかも何百年も前の作家の言葉を演じるのは違うモードになりそうですか? 鳥居:自分が書いた言葉にはすごい感情が乗るけれど、他人の書いた言葉は理解できないことも多いですね。「言いやすいように変えていいよ」と言われたりもするけれど、そのほうが言いづらくなったりする。「自分の言葉として出てきたものでもないのに、自分の言葉にするなんて!」と。「語尾を変えていいから」とか言われると、却ってパニックになっちゃう。むしろ、覚えたことをそのままやりたい。そうでないと訳わからなくなるんです、本にも台詞にも自分の想いが乗っていないから。 柄本:他人が書いたものだからわからないですよ。 江本:私も同じように思います。どうしてるの? そういうときは。 柄本:僕はもう、何回も台詞を繰り返して言い続けますね。よくたとえ話にするんですけど、「四番バッターがホームランを打つためには素振りするでしょ? 僕は台詞を言うのが仕事だから、台詞を何回も言うんです」と。 江本:鳥居さんも素振りするタイプだよね(笑)。 鳥居:(照れくさそうに)なんでそういうこと言うの!! 江本:人一倍努力家とか、そういう印象があるから。 鳥居:違います! 人一倍不器用だってわかってるから! あーもう、やめてっ!! エモジュンさんみたいに、素振りしないのに、いきなりホームラン打てるタイプとは違うんです! 江本:そんなことないですよ。でも演出家として、素振りしている役者さんはとても好きです。さっきの「信頼のまやかし問題」じゃないけど(笑)、「練習している」と見えることが安心というか、それ以外はわからないでしょ? 心なんて見えないし(笑)。 鳥居:昔、一回も読んでいない台本でいきなり本読みしなきゃいけなくなって、とりあえず風呂につけました(全員爆笑)。“読み込んでいる感”を出す加工として。 江本:それ、素振りじゃなくて嘘つきじゃん!(笑)。 柄本:それで「アイツ、読み込んでるゼ」とか周囲が思ったら面白いですね(笑)。 江本:ま、周囲に溶け込むための誠意の一種かも知れないけれど。 鳥居:結果、漢字読めないし、ページが貼りついちゃって読みにくいしで効果薄かったですけど。 今回は、ちゃんと読んでから稽古に行きます。 ――お二人に、役についてお話を伺えますか? 柄本:僕、何の役をやるんですか? 鳥居:私もなにも知らない。 江本:鳥居さんはキャタリーナで、柄本さんはペトルーチオ。 柄本:あ、そうなんですか? まだ変わる可能性がある、とかなんとか聞いた気がしてた。 鳥居:今から変えます? 私の役と(笑)。 柄本:(笑)男女逆っていうのは、それはそれで面白いですよね。 江本:自分の欲望のために邁進する男と自己主張の強過ぎる女がバチバチとぶつかりあって、結果、女性が急激に良き妻になるという話だけど、あんなに暴れん坊だったキャタリーナが変わっていく、キャタリーナ自身のきっかけのようなものが、読んでもよくわからなくて。 柄本:(笑)シェイクスピアって、そういう強引な展開が結構ありますよね。 江本:なぜ彼女が、男の躾によりそこまで変わったのか、その理由を考えているところです。 ――皆さんは、「恋人を自分好みに変えたい」欲求はありますか? 鳥居:私、「後輩を太らせたい」という欲求ならあります。 柄本:それ、どういうことですか? 鳥居:自分では食べ切れなかった分を後輩がよく食べてくれるんですが、そのためにどんどん太っていく様が気持ちいいんです(笑)。 柄本:女王の資質を持ってますね、鳥居さん(笑)。 鳥居:あくまで「私の残したもので」というところが重要。だから、わざと一杯自分の分を頼んだりしますね。私Sなので、人をゴミのように扱いたいです(笑)。 柄本:僕は、もうなんでもいいです。相手は、何しててくれてもかまわないな。その代わり、僕が相手の影響を受けることもないので。 江本:人の支配欲って、本当にわからないものですよね(シミジミ)。 鳥居:えー、じゃあ今回の私は、そういう躾っぽいことを柄本さんにされるんだ。実際の私と柄本さんの性格とは真逆の関係ですね。柄本さんって今何歳ですか? 柄本:今年25になります。 鳥居:すっごい若いじゃん! おじさんになら躾けられてもいいけどなぁ……。 柄本:(笑)年下ですみません。 江本:でも、ほとんどの場面ではやりたい放題な人ですよ、キャタリーナ。 鳥居:そっか、じゃあやったぶんプラマイゼロですね(笑)。とりあえず、本屋さんで戯曲を買うところからガンバリます(全員笑)。 |
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INFORMATION |
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2014年11月20日(木曜)〜11月24日(月曜・振休) 世界中のフェミニスト達から総スカンを喰らうシェイクスピアの問題作 を、 |