元禄14 年（1701 年）3 月14 日に、江戸城松の廊下で、播州赤穂の大名浅野長矩（あさのながのり）〈内匠頭（たくみのかみ）〉が、高家（こうけ）旗本、吉良義央（よしひさ）〈上野（こうずけのすけ）〉に切りつける、という事件が起きます。
長矩は切腹を命じられ、お家は断絶します。
やがて浅野の家臣47 人が主君の仇討のため、吉良の屋敷に押し入り、義央を殺害。
この史実を元に、偶然にも47 年後の寛延元年（1748 年）に、竹田出雲、並木千柳（宗輔）、三好松洛ら3作者の合作となる「仮名手本忠臣蔵」として劇化され、大阪竹本座にて人形浄瑠璃で初演されました。
時代背景も登場人物もさまざまに脚色され、四十七士の敵討にいたるまで、そこに巻き込まれていく人々の悲喜こもごもが描かれた、時代物の代表的な作品の一つです。
さらに数々の忠臣蔵物の中でも、上演数もきわめて多く、今日に至るまで高い人気を得ています。
今回語られるのは、大事件の発端となる場所、江戸城松の廊下。時代を室町に置き換え、吉良上野介は高師直（こうのもろなお）、浅野内匠頭は塩谷判官（えんやはんがん）という役名となり、刃傷事件に至るまでの二人のやり取りが描かれます。
塩谷判官に不本意に浴びせられる師直からの悪口雑言は、止まることを知らず、井戸の中の鮒に譬えて“鮒だ、鮒武士（ふなざむらい）だ”と大笑いする件（くだり）で判官の怒りは頂点に達し、思わず刀を抜きます。
師直の悪意に満ちた厭味たっぷりの長台詞は、状況の切迫感に反して笑いも起き、微妙でかつスケールの大きさも感じられる、みごとな表現になっています。
文楽の若手技芸員、竹本相子大夫と鶴澤清馗の二人が、この難しい演目に精一杯臨みます。
どうぞご期待ください。