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同じ「ミュージシャン」という肩書きながら、かたやロックスターとして舞台やテレビ、ラジオでもその親しみやすいキャラクターで活躍するROLLYと、かたや超絶技巧のフリージャズピアニストとして数多くの猛者たちと即興を繰り広げているスガダイロー。そんな二人が10月から12月にかけて、同じあうるすぽっとに、子供たちへの絵本の読み聞かせと、身体表現家たちとの即興対決という、これまた方向性の異なる企画で登場します。
どこまでも対称的に見える二人ですが、しかしそれゆえに刺激に満ちた異次元対談をそれぞれの公演の見どころとともにお届けします。
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――お二人はまさに初対面ということで。 スガ:そうなんです。僕のほうはROLLYさんが「ローリー寺西」の名前で活躍されている頃からテレビで拝見していました。 ROLLY:いつの間にか歳だけとってしまって(笑)。 スガ:いやいや、ぜんぜん変わらないですよ(笑)。『お話の森』っていうのは朗読なんですか? ROLLY:一応、「絵本の読み聞かせ」ってことにはなっていますけど、私の場合、子どもが寝る前にお父さんが読んであげるような、そういう生やさしいものではないです(笑)。例えば浦島太郎だったら、まずは竜宮城がいかにサイケデリックな場所かという話をします。 スガ:なるほど(笑)。 ROLLY:その上で浦島太郎が戻ってくる海岸は、現代の江ノ島。そしたら海水浴場には、裸に小さい布を巻いただけの若い女性がいっぱいいるわけですよ。 スガ:水着の女性が(笑)。それは面白そうですね。子供たちの反応はどうですか? ROLLY:今年で4年目なんですけど、だいたい泣きますね(笑)。演出もお化け屋敷のようにやりますから。まず会場の後ろにはダリのようなヒゲをつけた私の肖像写真が飾ってあります。そこにイタリアン・ホラー映画の名作『サスペリア』のテーマがうっすら流れてきて、ショーが始まると同時にド暗転。子供が体験したことのないような真っ暗闇です。そこに一撃のカミナリが(目を大きく見開いて)ズガーッ!! と。ライティングショーにあわせて「ハロー、ボーイズ・アンド・ガールズ」というおどろおどろしいナレーションが入り、まさに肖像写真の恰好をした私が現れるんです。それで最初の話は決まっていて、いつも源氏物語から始めます。これを変則チューニングのギターで伴奏をしながら語るんです。 スガ:それはすごい(笑)。音楽的な要素もあるんですね。 ROLLY:ギターシンセサイザーとかコーラスマシンを使って、フルオーケストラで伴奏します。だから朗読というよりは半分はコンサートですね(笑)。スガさんのアルバム『春風』を聴いたんですけど、あの感じにも近いかも。グワーンと始まって、極度の緊張の連続と、それを一瞬のうちに叩き壊してしまうカタストロフィ! そして最後にさわやか……。 スガ:アルバム、聴いてくださったんですね。ありがとうございます。ちなみに僕も毎晩、娘を寝かしつけるときにお話を読むんですけど、自分が飽きっぽいもので、例えば竹取物語なんかでも、やっぱり話を変えてしまうんですよね。 ROLLY:即興で改変するわけですね。毎日少しずつ変えれば、竹取物語ひとつでずーっと楽しめますからね。 スガ:今や、かぐや姫はピンクのドレスを着ていて、王子様が馬に乗って迎えにくるって設定になってます。で、最後に「かぐや姫は宇宙人だったのです」とやったら、こないだ娘が泣き出しちゃって……(苦笑)。 ――実際の昔話も、そうやって改変を重ねていくうちにできあがったものもありますからね。 スガ:結局、面白かったらそのバージョンが残るんですよね。ROLLYさんはいま注目しているお話はあるんですか? ROLLY:あうるすぽっとから雑司ヶ谷の鬼子母神堂が近いので、今度の公演は鬼子母神の伝説をやってみようかなと。 スガ:いいですねぇ〜。 ――ROLLYさんは音楽と舞台の双方でキャリアを積んでらっしゃいますが、音楽家と舞台人の肌合いの違いを感じることはありますか? ROLLY:うーん……どうだろう? 私はどちらにも馴染めてないからね(笑)。音楽の世界にいると音楽家のよくないところが見えるし、演劇の世界にいると演劇人のよくないところが見える。「ああっ! 私はいったいどこに身を置けばいいんだろう……!?」って悩み苦しんでいるのが自分なのかもしれないですね(笑)。その点、『お話の森』にも、スガさんの『瞬か』にも出演される近藤(良平)さんなんて、アヴァンギャルドな姿勢のままどこの世界にも上手に溶け込みますよね。近藤さん振付の舞台に出たことがあるんですけど、私みたいな者の扱い方もよくわかってるんですよ。わかってない振付家は、私にダンスをさせようとするんです。「そんな難しい踊りできるわけないじゃない!」って。だってギターを弾けない人に「そこチョーキングで」って言ったってムリでしょ? その点、近藤さんはそういうムリなことはさせずに、私のできることを伸ばそうとしてくれる。 |
――近藤さん率いるコンドルズもそういうコンセプトのカンパニーですものね。スガさんも今回、近藤さんと共演されますけどどんな印象をお持ちですか? スガ:……すみません、ほとんど知らないんです。というかあえて知らないようにしています。僕の場合、誰だかわからない人とやるほうが上手くいくというか、事前に予習したり意識したりするとダメで……。だから今回、共演する方のことは全員まったく知らない状態です(笑)。 ROLLY:即興と言いつつも練習しちゃったり、型にハマるのはいただけないですもんね。 スガ:そうなんです。やっぱり自分でその場で考えないと面白くないっていうのがあって。 ROLLY:ちなみにどなたがブッキングを? スガ:プロデューサーに任せています。 ROLLY:スガさんのことを信頼してらっしゃるんでしょうね。こういう未知の企画はミュージシャン本人はよくても、周りのスタッフが恐がるケースが多いですから。 スガ:ROLLYさんも、即興をやられることはありますか? ROLLY:タップダンサーの熊谷和徳くんと2人でやったことがあります。僕はギターを演奏して。意識としては、お互いに筆で塗っていきながら絵を描いていく感じでした。どういう絵を描くか、その方向性さえ合っていたらジャンルは関係ないな、と思いましたね。また、片方は水森亜土風の絵を描こうとしているのに、なぜかその上に楷書を書いちゃうような展開も面白かったりする。当日はリハーサルもしないんですか? スガ:しないですね。ちょっとしたサウンドチェックをするだけです。 ROLLY:そういえば以前、ドラマーの中村達也さんとやってらっしゃいましたよね? スガ:はい、達也さんにけっこう気に入ってもらってよく呼んでもらうんです。ただ毎回即興なので、達也さんとはリハーサルをするような音楽を一回もやったことがないんですけど(笑)。 ROLLY:そういう時、どれぐらいの時間、演奏するんですか? スガ:40分ぐらいですね。達也さんにずっとドラムを叩いてもらって、そこに僕もピアノをぶつけていく感じで。 ROLLY:いい! それはいいです。なぜならば、ビートルズの東京公演も35分ぐらいでしたから。ミュージシャンが全力で集中できるのは、最高でも1時間ですよ。 スガ:ROLLYさんのライブは、だいたいどれぐらいの時間ですか? ROLLY:観客のことを考えると、本当はアンコール込みで90分以内に終わってあげたいし、私自身もそう思っているんだけど、なぜだか知らないけど周りがそうさせてくれなくて(苦笑)、やっぱり2時間越えちゃうんですよねぇ。今までで最高が3時間40分。さすがにそういうのはもうやめましたけど。できるなら短いほうがいいと思います。あと、お聞きしたいんですけど、『瞬か』のフライヤーの写真を見ると、コンサートピアノを客席に向かっていて真正面というか、スガさんの顔が正面から拝見できるように設置されていますけど、実際にこういう置き方をするんですか? スガ:いや、これは撮影上の演出です(笑)。 ROLLY:実際には横向きで? スガ:ええ、そうです。横を向きます。そうしないと音が飛ばないので。 ROLLY:いや、どうしてそんなことを聞いたかと言うと、レディ・ガガのステージがちょうどこんな感じだったんですよ。しかもレディ・ガガの場合、ピアノの上の部分が張りぼてでいろんなカタチになってるんです。怪獣とか(笑)。 |
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――通常、ミュージシャン同士の即興演奏だとある程度ステージ上で動く範囲が決まっているわけですけど、今回、『瞬か』でスガさんが一緒にやる方たちは皆さんパフォーマーなのでどういう動きをするか予想できない部分もありますよね。 スガ:僕がピアノの前から動けないことだけは確実ですけどね(笑)。 ROLLY:そのピアニストの不動っぷりは強いですね。ピアノの弦をそのまま弾いたりもしますか? スガ:あまり弦に触ると錆びてしまうのでよくないんですけど……。 ROLLY:ロックの人はよくやりますよね。 スガ:僕も結局やってしまうことはあるんです。だから、そこらへんも自分でルールを決めていかないとダメなんですね。即興の自由というのは、「自分でルールを決められる」という自由であって、「自分で決められない」というのはそれは自由ではないので。とりあえず今回決めているのは、「ピアノを弾かないというのはナシ」にしようと。何があってもピアノは必ず弾こうと思っています(笑)。 ROLLY:それ以外は何が起こるかわからない(笑)。 スガ:ええ、僕自身、まったく予測不能なので、みなさんで目撃していただければありがたいです。 ROLLY:また不思議なもので、舞台芸術というのはお客さんが100人いたら100人違う感想を持つ可能性がありますからね。しかも、こともあろうに、舞台で行われていること以外の要素によってもその日の出来不出来が左右されてしまう。隣の男がずっと歌っていてジャマだったとか、そういう場合もありますからね(笑)。結局、我々にできるのは全力を尽くすことだけですよ。 スガ:ホントそうですね。 ROLLY:お互いベストを尽くしましょう! スガ:はい! 取材・文/九龍ジョー |
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INFORMATION |
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10月30日(水曜)〜11月4日(月曜・祝日) 今秋、比類なき最新鋭の即興パフォーマンス公演が実現! |