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モダンスイマーズ率いる蓬莱竜太さんの自伝的要素の濃い作品『デンキ島』シリーズ。三作のうち二作目にあたる『〜松田リカ篇〜』を自劇団で、劇団道学先生に書き下ろした『〜白い家篇〜』を同劇団の再演として、連続上演が決定しました。道学先生の演出を手がけるのは大谷亮介さん。家もご近所という二世代演劇人に、このワクワクする企画についてお伺いしました。
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――劇団道学先生への外部書き下ろしを含め、三作まで世界を広げた『デンキ島』シリーズは、蓬莱さんにとって大切な作品だと思うのですが。 大谷:僕もその辺のことを聞きたかったんだ。改めて話したことなかったよね。 蓬莱:最初の『デンキ島』を書いたのは、モダンスイマーズを旗揚げしてから4年目くらいの2002年。劇団の基盤もでき、カラーもある程度見え始めたころなんですよ。当時、それまでとは少し違う、泥臭いというか田舎臭いというか、こってりした芝居をやってみたいなとふと思った。周りを見回しても、同世代でそういう芝居をやっている集団も風潮もなかったし、ならば恐れずにやってみようと、出身地の石川の風景や人間関係を描いてみたんです。手応えもそれなりにあって、それ以降、色んなことに挑戦するのが怖くなくなった、自分の中でも大きな転換点になった作品ですね。 大谷:道学先生への書き下ろしはどうして? 蓬莱:主宰の青山勝さんが、このシリーズを気に入ってくださってたんです。で、依頼を受けて。 大谷:初演は観ているんだけど、いつもの蓬莱君の作風とは違う気がしたんだよね。 蓬莱:あ、そうだと思います。そもそも『デンキ島』はある種の青春モノなので、道学先生の役者さんたちのために書くとなると、だいぶ勝手が違うんです。で、青山さんが望んでいたものも日活映画の『渡り鳥シリーズ』みたいな、海の男たちがカッコ良く渡り合い、その中で自分もカッコ良く見える芝居を書いて欲しいということだったようで(笑)。タイトルも、愛する女を助けるため、自分を犠牲にする男のカッコ良さを描いた洋画『カサブランカ』からもらったもの。カサブランカはスペイン語で「白い家」という意味じゃないですか。 大谷:そうなんだ! どうりでテイストが違うと思った。 蓬莱:ですね。漫画というか、イイ大人が日活ごっこをするような楽しさを狙って書いているので、シリーズとしては外伝みたいな位置づけだと思います。 大谷:今「そういうことなので、あとはヨロシク」って顔したでしょ(笑)。 蓬莱:いやいやいや。でも今回、大谷さんが演出をしてくださると聞いて、僕は「良かった!」と思ったんです。絶対に面白くしてくれる、むしろハチャメチャな何かを投入したほうが、全然別の面白さが見えてくる作品じゃないか、と僕自身が思っていたもので。 大谷:気軽に言ってくれるねぇ(笑)。結構悩んでいるんだよ、これでも。あの登場人物たちの年齢は、演じている俳優よりもう少し若いんだよね、きっと。 蓬莱:40ちょい過ぎくらいの設定だったと思います。 大谷:でしょ、男たちは厄年前なわけだ。それでもまーだ、あんな因縁のつけあい、小競り合いをやってるエネルギーみたいなものが、もっと如実に伝わって来ないと成立しない作品じゃないか、と戯曲を読みなおして思ったんだ。能登なら能登の方言とか、島の自然の美しさとか、そこで生きるしかない人間の気質がちゃんと伝わるように作れば、「コイツら、まだこんなことやってる。でもこんな島の暮らしじゃ当然か」というところへ繋がっていくでしょ。僕が演出するとしたら、その辺から始めるのが良いのかな、と今は思っているんだけど。 |
――蓬莱さんにとっては、自作を見直す良い機会になりそうですね。 蓬莱:そうなんですよ。『〜白い家篇〜』は確かに、大谷さんが言うエネルギーをグッと上げたほうがいいと僕も思います。役者の年齢なんか淘汰されてしまうくらい、ハチャメチャなエネルギーが出たら絶対に面白いですよ。 大谷:良かったー、思っていることがハズレてなくて。なんで自分に演出の依頼が来たのか、実は思い当たることがなくて不思議で仕方なくてさ(笑)。 蓬莱:僕にはすごく納得がいったんだけどなぁ。絶対、僕が見たこともない『デンキ島』の世界が拓けると思うから。 大谷:『白い家篇』は? 蓬莱:考えてませんでした。 大谷:えー、一緒にやろうよ、戯曲の検討も!! 蓬莱:(笑)やりますよ、もちろん。 大谷:だって、話を聞いていると蓬莱君の中にも「もっとこうしたい」ということが、『白い家篇』にもある気がするし。だいたい、上演する劇場空間がまったく違う。元々はシアタートップスですからね、あうるすぽっとだと2個入っちゃう感じじゃない? 蓬莱:ですよね。僕の舞台美術のイメージとしては、デンキ島の閉塞感、ずっと曇天が続くような重苦しい空気を舞台上にどう立ち上げるか、から考えたいと思っていて。 大谷:最初、同じ舞台美術で連続上演するのかと思ったら違うんだよね。そうしたら舞台美術家も全然違う人だった。ごめん、企画をちゃんと理解していなくて。でも折角の連続上演だから、どこかで二作が通じているような共有部分もあっていいと思うんだ。 蓬莱:賛成です。 大谷:なんか、上演プランの打ち合わせみたいになって来ているな(笑)。これまでは飲み屋では話したことしかなかったけど、世代・年齢の差はかなりあるのに、こうやってすごくフラットに芝居の話ができるのが蓬莱君の良いところだよね。 蓬莱:家が近所なせいか、大谷さんも夜中に気軽に電話をくれますよね。それも「本が書けないんだけどどうしたらいい?」とか、答えようのない質問で。とても20歳近く年が離れているとは思えません(笑)。 大谷:なんだ、人をクソジジイみたいに(笑)。仕方ないじゃん、自分の中では弱い部分だと自覚しているから、専門家にアドバイス求めてるんだよ。 蓬莱:僕はなぜか、そういう年上の方と縁が深いんですよね。三田村周三さんや平田満さんとか、気づくと周りに同年代がいない(笑)。 大谷:いや、でも今日は有意義だったなぁ。色々と、脳内パソコンに書き込めましたよ、演出のためのアイデアを。やっぱり僕は、青春を引きずったダラしない大人たちの話ではなく、島という特殊な環境が作った人間の気質、変えがたいものをギュッと凝縮して出したいなと思います。 蓬莱:僕もそこはこだわりたい。それに、劇団をいつも以上に強い力で引っ張っていきたいんですよ、今回の公演は。たとえば島の曇り空の暗さ、島の人間の閉鎖的な基質などの表現方法は、台本に囚われなくても互いのイメージを交換することで摺りこんでいけると最近思えるようになって、今はそれが非常に楽しいんです。プロデュース公演の現場ではよく行われることなんですけど、なんでも暗黙の了解でやってきた劇団内では逆にそういう作業が少なくて。今回は、そんな「演劇の可能性」を劇団員と一緒に掘り下げられるように、敢えて舵を切りたいと思ってます。 ![]() |
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大谷亮介 生年月日:1976年1月7日 |
INFORMATION |
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2011年3月20日(日曜)〜 3月27日(日曜) モダンスイマーズと道学先生が |