最後に、タイトルにもある「死」については、お二人は今の段階でどのようにイメージしていらっしゃるのでしょう?
佐藤:これは「消えてしまう死」なんですよ。純粋な「死」というより「消失」だと僕は思う。舞台の上から世界が消失していくのを観客に見せる。死について哲学的なことを展開するのとは違いますよね。
柄本:その点では、今までで一番わかりやすい気がしているんですけれど。
佐藤:うーん、わかりやすさの保証はできないけれど(笑)、『瀕死の王』というタイトルを聞いてクスッと笑うか、ドンと重く受け止めるかでも違うよね。「王」という言葉をタイトルにしたのは、そこにシリアスとコミカル両方の選択肢を用意するためだと思う。死と消失、シリアスとコミカルというような対比もまた今回の演出のヒントだし、敢えて「死のドラマ」を意識しないことが手掛かりになると思う。柄本さんは「死」について何をイメージしている?
柄本:この芝居においては「当たり前のこと」というイメージぐらいです、今のところは。むしろ意識しておきたいのは別のところにあって、それは観客との関係性なんです。舞台上と客席は「敵同士」だと僕は思う。もう少し柔らかく言うなら「他人」かな。最初から馴れ合ってしまうと、芝居の面白さは半減してしまう。劇場という暗闇の場所で上演していながら、そこが「犯罪の場所」でなくなるんです。
劇場は、暗闇にすることで観に来た観客が一人一人になり、そこで舞台を「覗く」という犯罪が潜在的に行われる場所。そういう空気が、芝居の底辺にはあるべきだと僕は思っている。『瀕死の王』では、観客とのそんな関係性も意識してみたいですね。
取材・文/尾上そら |