おどる童話『まほうのゆび』

スズキ拓朗さん

42 INTERVIEW

ダンス、パフォーマンス、演劇など既存のジャンルを軽々と飛び越え、ユーモアあふれる作品を次々に生み出す振付家・演出家:スズキ拓朗さん。コンドルズのメンバーとしてもおなじみですが、外部での幅広い活躍は、既に広く知られるところとなっています。そんなスズキさんの新作が、あうるすぽっとに初登場します! 『チャーリーとチョコレート工場』など、その作品の多くが映画化もされている、イギリスの作家ロアルド・ダールの童話「魔法のゆび」から立ち上げる舞台は、子どもたちが主役。スズキ流の身体と動きの魔法が、たくさん散りばめられたものになりそうです。

INTERVIEW

――取材の直前まで、新作のための子どもたちを対象にしたワークショップ(以下WS)を行っていましたが、実ににぎやかで楽しそうでした。

スズキ:小学2年生から中学2年生まで集まってくれましたが、いやぁパワーがスゴイ! 油断していると、こちらが働きかける前からコトが始まり、ただのレクリエーション・タイムになってしまうんです(笑)。水面下ではきちんとメニューを決めておかないと、子どもたちとの時間は豊か過ぎて暴走しがち。でもこちらが吸収できることもたくさんあるので、僕自身も毎回楽しみにしています。 今回ははじめましての方だけでなく、昨年の僕の作品、おどるマンガ『鳥獣戯画』に参加してくれた子もいたのですが、見違えるように成長していて。舞台をきっかけに演劇が好きになり、普段の生活でも物事に積極的に向き合えるようになったと言ってくれたのですが、とても嬉しかったですね。  

――ご自身のカンパニー「CHAiroiPLIN」では、戯曲だけでなく小説や詩をもとに創作されることも多いですが、今回は童話が題材です。

スズキ:ロアルド・ダールの作品は以前から好きで、童話で邦訳されたものは恐らく全部読んでいると思います。今年の年頭に公開された『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』というアニメーション映画や『グレムリン』、『ジャイアント・ピーチ』もロアルド・ダールが原作。

――それは知りませんでした。

スズキ:ですよね。僕も大人になって改めて気づいたのですが、まだ両親と一緒に映画館に行っていたような頃から好きだった映画の原作がみな、同じ作家のもので、「コレは自分でもロアルド・ダールをやるしかない!」と思った次第です。この「魔法のゆび」は、正義感の強い魔法のゆびを持つ女の子である8歳の「わたし」が、隣りに住む同じ年のフィリップ・グレッグとその家族に魔法をかけ、考えを改めるようにする、という物語。自然や動物たちが人間に仕返しする、という構図が、これも僕の大好きな宮沢賢治の「注文の多い料理店」に似ているな、と思ったんです。

――確かに、狩猟好きのグレッグさん一家が、獲物であるカモと立場が入れ替わってしまう展開は少し恐ろしいけれどユーモラスで「注文の多い料理店」と世界観が通じています。

スズキ:そう、ブラック・ユーモアのセンスがとても良いし、きっかけは子どもの想い、ちょっとしたイタズラのような面もあるのが面白いな、と。

――と、同時に不思議な生々しさも感じられます。

スズキ:そうなんですよね。主人公の「わたし」は、物語の最初で魔法をかけてしまうと、あとは直接ドラマに関わらず、外から見ているストーリーテラーのような存在になってしまう。それがとても演劇的だし、舞台作品にする時、「わたし」を自由に劇中で動き回らせることができる、と思ったんです。この物語はそんな「わたし」の空間と「グレッグ一家」の空間、二重の構造になっている。その二重の間を行き来する狭間に、観ている子どもたちも参加できる、もう一つのスペースが作れるのではないか、と今は考えています。
それに、僕は“人間ではないもの”を表現するのが好きなので(笑)、魔法で変身させられたネコやカモなど、奇妙なキャラクターが多いのもチャレンジしがいのあるところ。衣裳や小道具など、どんなものを使うか今からワクワクしています。

――スズキさんの普段の作品から比べると、登場人物も少なめです。

スズキ:これまでは多くの出演者をダイナミックに動かす舞台が多かったのですが、最近はもう少しコンパクトな編成での創作に興味が向いていて。その意味でも「魔法のゆび」は良い材料でした。人数が多いと、動きのダイナミズムやスピード感でドラマを生み出していけるのですが、少人数の場合はそれ以外の部分で「演劇」を立ち上げないといけない。この作品は、自分の得意分野を敢えて封じた、演出家としての挑戦になる気もしています。

――なるほど、興味深いです。ちなみに、本来原作中にはない「ダンス」や「ムーヴメント(動き)」の場面がスズキ作品の大きな魅力ですが、創作過程ではどういう場面で描写や言葉が「ムーヴメント」になる、という傾向などはあるのでしょうか?

スズキ:そうですねぇ……敢えて雑な言い方をすると「読んでわからなかったところ」でしょうか。何度読んでも、作者の意図が汲めない、理解できないところをダンスにしてみたりします。それが、僕の作品のヘンなところでしょうか(笑)。でも、ミュージカルの構造も似ていますよね。「事を成そうゼ!」と盛り上がってくると、踊って場面のテンションを上げたり、歌でストーリーを展開させるなどするじゃないですか。表現を拡大するというか。僕にとってのダンスやムーヴメントも同じで、書かれている以上に出来事を増幅させたい時に使う武器のようなもの。今作で言えば、ゆびが放つ魔法の場面がまさにそれで、普通に考えたら照明や音響、ドライアイスの効果などを用いるのでしょうけれど、それは“そういうこと”が得意な、正統派の演出家にやってもらえばいいこと。僕がやる以上は、たとえば「ゆび」が魔法を使う時どういう状態になるのかを考え、それを「ゆびの振りで表現してみよう」などと考えながらダンスにしていく。そういう取り組みが面白いし、創作の核になっていくんです。いわば創作上の、僕自身を釣り上げるための「エサ」のような部分だと思っています。

――ダンスと演劇が、スズキさんの頭の中でどう融合していくのか、とてもよくわかる解説でした。

スズキ:ありがとうございます。それから、今回もう一つこだわりたいのは映像で。映像作家の青山健一さんとはよく創作をご一緒させていただくのですが、「魔法」の場面に関していつも以上に力をお借りしたいな、と。映像の内容だけでなく、鏡などを舞台装置に投影するといった工夫も必要だと思うので、そこは稽古をしながらたくさん発見したいと思っている部分です。きっと、子どもたちからもどんどんヒントがもらえるでしょうし。何の責任もなく、ポンと言うことがスゴい発想だったりするので、子どもたちにはかないません(笑)。

――子どもたちは論理や理屈に縛られていませんから。

スズキ:そうなんですよね。だから、僕の場合も一番大切にするのは、原作との最初の出会い方。何度も読めばわかるのは当たり前ですから、何の先入観もなくまず読んで、引っ掛かったところをマルで囲むなど印をつけておくんです。そこを、先ほどお話ししたような拡大表現にしていくと、自分らしい作品のリズムが生まれたりする。そんな、原作など知らないお客様の目線に一番近い状態から立ち上がるものを、大切にしたいと思っています。でも、現場で台本に書き込んだりなどは、ほとんどしないんです。

――どうしてですか?

スズキ:「稽古を見ながら書く、振付しながらメモする」というような、二つのことを同時にはできないんですよ、僕。これは学生時代からのことで、思考は複数のことに向かっているし、捉えてもいるのだと思いますが、それを言語化できない。右脳と左脳を並行して使うことができない、とでも言えばいいのでしょうか……単にアタマが悪いと言われそうですが(笑)、100%動かすためには左か右かどちらか、というのが僕の脳の選択肢なんですよね。だから、外部に演出家として呼ばれた時も台本はまっさら、きれいなままで、代わりに演出助手の方がいつも、僕のつぶやきなどをきちんとメモし、ダメ出しできるよう準備してくれるんです。

――そんな、右脳派だからこそ、スズキさんの創作は子どもたちと相性が良いのかも知れませんね。

スズキ:それはあるかも知れない。今日のようなWSも、現場は混沌としていますし、その場で生まれて来るものも、ドラマとしては未熟なものばかりですが、僕自身は目を奪われて視線が離せなくなることが多い。それはきっと、子どもたちの視点や考え方にシンクロして、僕も一緒に夢中になってしまうからなのか、と今思いました。

――衣裳や舞台美術などビジュアルについて、今お考えのことはありますか?

スズキ:普段は割とポップなものが好みなんですが、今回は作品の印象、少しブラックな空気感を活かすために、衣裳などもちょっとグロテスクで、アート風のテイストのものが面白いかな、と考えたりしています。僕、フィリップ・ドゥクフレが大好きなんですが、彼の作品も大掛かりな装置があるわけではないけれど、デフォルメされた衣裳がその代わりになって、作品世界を広げていたりしますよね? ああいう空間が理想で、ダンスをダイナミックに展開するには、あまり建物がしっかりある空間は向いていない。でも、「家」はこの物語のカギになるものではあるので、観る人にイメージを広げてもらえるビジュアルにはしたい。その当たりは、早く美術家の方と打合せしたいと思っています。

――スズキさんご自身も出演されるのですか?

スズキ:(即答で)もちろん出ます! いえ、去年の舞台で数えてみたんですが、僕、自分の団体とコンドルズ以外ではほとんど踊っていないんですよね。肩書きには「振付家、ダンサー、演出家」とあるのに、踊らないのはいかがなものか、人様には「ああしろ、こう踊れ」と言うのに、自分で頑張らないのは責任問題じゃないかと思いまして(笑)。なので今回も、しっかり出演し、踊らせていただきます!!

――出演中は、演出家としての視点などが邪魔したりしないのですか?

スズキ:そこはもう全然、演出脳ゼロになっちゃいます。稽古も、ギリギリまで代役の人にお願いしていて、自分で場面に入るのは本番直前になってから。ま、その“ギリギリ感”も楽しんでいるところはあるんですが。劇団のメンバーには「もっと早く入ってよ!」と不評ですけれど(笑)。

――ご自分の役割は決めていらっしゃるのですか?

スズキ:んー、まだ確定ではないですが、カモかグレッグさん一家の誰かとか……発想を全く変えて「ゆび」役もアリかな。さっきお話ししたように、魔法に関する表現は作品のカギになると思うので、これから色々考える部分。そこを、踊る人間で表現するのも面白いかな、と。(何かを数えるようにして)手足と頭を入れたら5本分になりますよね(笑)。こうやって考えている時が本当に楽しくて、でも自分のことをつい後回しにしてしまうもので、本番一週間前になっても自分の役が決まらず「これ拓朗さん出ないんじゃない?」と言われたこともあります(笑)。

――是非、スズキさんも登場する『まほうのゆび』を拝見したいと思います。

スズキ:はい、大好きな童話を楽しみながら立体化したいと思っています。子どもたちはもちろん、大人も一緒に楽しんでもらえるものが目指すところです。

取材・文:尾上そら 撮影:市来朋久

スズキ拓朗
振付家・演出家・ダンサー。1985年生。ダンスカンパニーCHAiroiPLIN主宰。2011年よりダンスカンパニーコンドルズ参加。横浜Dance CollectionEX奨励賞、第46回舞踊批評家協会新人賞。若手演出家コンクール最優秀賞、第3回世田谷区芸術アワード飛翔受賞、他受賞歴多数。平成27年度東アジア文化交流使。
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